上田晋也
「前々回の“右ストレートで1時間”、恐らく今テレビであんだけマニアックにボクシングのこと語れるのって、ここだけじゃないかと。僕ねボクシング中継でも怒られると思うんですよ(笑)。今日はですね、テーマが“ボディブロー”。これで1時間お送りしようじゃないかと。」
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今回のテーマ
「ボクシング “ボディブローで1時間”」
ボディブロー
胴体への攻撃方法の一つで腹部を狙うパンチ
主に攻撃への変化や相手の防御を崩す
ゲスト解説
今岡武雄(イマオカボクシングジム会長)
斉藤一人(イマオカボクシングジム チーフトレーナー)
渋谷淳(ボクシングライター)
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ボディブローの効果
ボディブローはガードが開いてしまうリスキーなパンチなので、アウトボクサーだった今岡会長は現役時代ほとんど使う事がなかったそうです。斉藤チーフもまた、キャリアの後半で少し使い始めた程度で、それまでは怖くて打てなかったとか。
打たれる側としては「顎は鍛えられないけど、ボディは鍛えられる」ので、ボクシングでは「“上”で倒れるよりも、“下”で倒された方が情けない」というイメージが強いそうです。今岡会長も斉藤チーフも試合では「ボディは効いた事がない」そうですが、スパーではお二人とも口をそろえて「(同門の)渡辺雄二に打たれたのは効いた」と言っていました。やっぱり名手にしか分からないポイントっていうのがあるんですね。
今岡武雄
「(ボディが効いた時は)あれはもう…内臓を突かれたというか触られたというか…。」
上田晋也
「お二人にとってはトラウマになるような…?」
今岡武雄
「今でも恨んでますよ(笑)。」
上田晋也
「渋谷さんもよくボクサーの方から伺うんじゃないかと思うんですけども、顔面で倒れる時は“気持ちのいい天国に行くような”…。でもボディで倒されると結構“悶絶するような”っていう話ってよく聞きますよね?」
渋谷淳
「聞きますね。」
今岡武雄
「本当そうですね。上を打たれてっていうのは、痛いって感覚がまずないんですよ。もう芯が効いてしまってますんで、脳震盪起こしてますから。天にも昇るようなフワーッていう気持ちなんですね。ところがボディブローの場合、痛みオンリーなんですよ。苦しい。まず息が出来ないっていう。」
「試合ではボディは効かなかった」という今岡会長レベルになると、ボールを腹に落とすトレーニングや体重の重い人に腹をカカトで踏んでもらう程度では全然甘いとか。やはり8オンスのグローブで叩いてもらうのが一番効いたそうです。
今岡武雄
「あんまりやりすぎるとアバラを折ったりして…。」
上田晋也
「やっぱりそういう事もちょくちょくあるんですか?」
今岡武雄
「ありますね。さっきの渡辺雄二じゃないですけど、練習生何人か試合前に負傷してました。言うと怒られますからね。言うと食生活の…「カルシウムが足りない」って、会長に怒られますから。」
上田晋也
「え?骨折したにも関わらず怒られるんですか?」
今岡武雄
「骨折、一番怒られますね(笑)。」
斉藤一人
「自分は鼻を(スパーで)折られて…。だけど、やっぱり「カルシウム不足だ」って言われて怒られましたね(笑)。」
上田晋也
「いや、ここは折れるでしょ?パンチ来ればねえ?」
斉藤一人
「あまりそういうのが通じないんですよね(笑)。」
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みぞおちとレバーのパンチの打ち方の違いは?
みぞおち(胸骨の下)はインサイドから出す左のアッパーが一般的、レバー(肝臓)は右側にあるので左フック系のアウトサイドからのパンチで、と狙う場所によって打つ角度がかなり違ってくるそうです。
上田晋也
「難易度ってあるんですか?例えば、右ストレートでボディを狙うのと、左アッパーと左フックでは、どのパンチが打ちやすいとかあったりするんですか?」
今岡武雄
「難しいというのは、やっぱり接近して左のボディブローが非常に難しいとは思うんですけど、右のストレートを直接狙うっていうのはですね、かなり距離が空いてる状態ですからリスクは少ないと思うんですけど、やはりリターン、メリットとしては左のボディを思いっきり叩くっていうのが一番…ダメージは与える事はできますけど、リスクは高いっていう事で、難易度は高いと思いますね。」
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ボディを打つ時の有効な捨てパンチは?
今岡武雄
「フェイントって意味では、上にも下にもフェイントってあると思うんですね。だからボディを打つ為の上のフェイントなのか、上を打ちたいので下からフェイントをかけて決めは上なのか。」
上田晋也
「どういったフェイントが有効なんでしょう?ボディを打つ為の上のフェイントっていうのは?」
今岡武雄
「一般的には「ワン・ツー→左フック→左ボディ」とか。一番ポピュラーなのは「ワン・ツー→左ボディ」ですね。」
上田晋也
「それはチャベスなんかがよくやってたコンビネーションと言えますかね?」
渋谷淳
「そうですね。メキシカン選手はコンビネーションの中にボディを上手く入れるっていうのはやっぱりね…。」
上田晋也
「メキシカンは上手いですよね?ボディブローをもってくるのがね。」
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メキシコの選手はなぜボディブローが上手いのか?
メキシコの人たちは、アメリカからボクシングが伝わって来た時からボディブローの有効性にいち早く気付き、伝統的にボクシングスタイルの中に取り入れた事で“メキシカン・ボディ”という言葉が生まれるほどになったそうです。
上田晋也
「やっぱり日本はそれほど重要視してないんですかね?」
今岡武雄
「いやここ最近ですね、現代ボクシングでは凄くボディをポイントとしてとる傾向にありますし、「ボディ!ボディ!」という言葉が盛んに聞こえますから。」
上田晋也
「僕はそこを勘違いしていたのかも分かんないんですけどね、いわゆる15R制から12R制に…レイ“ブンブン”マンシーニとキム選手でしたっけ?」
○レイ“ブンブン”マンシーニ上田さんは12ラウンド制になってからのボクシングの試合では「ポイントにつながり難い」ので、ボディブローが減ってきたような印象を持っていたそうです。それに対し斉藤チーフはボディブローの重要性に関する興味深い話を。
(15RKO)キム・ドゥック●
1982年ラスベガス
KO負けしたキム選手は試合後に死亡
安全面を考慮して世界タイトル戦は12Rに短縮
上田晋也
「このまんまだと名手が減るんじゃないかって危惧してる…って俺が危惧する必要がないんですけども(笑)。」
斉藤一人
「さっきのメキシコの人がボディを打つ重要性っていうので聞いた話なんですけど、お腹を打つ事によって酸素の取り入れが悪くなるんで脳を殺せる。要は思考回路を殺せるっていう。それでメキシカンはやるんだっていうのを…。」
上田晋也
「クーヨ・エルナンデスなんかは、そう言ってましたよね。“ボディを叩けば、頭が死ぬ”みたいな事をね。ジョー・フレジャーなんかも確かそんな事言ったりとかね。だから、ボディを打つやつっていうのは…あれ本当にそうなんですか?ボディ打たれると思考回路が鈍くなるんですか?」
今岡会長
「ちょっとした呼吸困難になると思うんですよ。一般的に“吸う”時に打たれると効くんですね。“はく”時、あるいは“止めてる”時であれば耐える事ができるんですけど、“吸う時”って一番力を入れる事が出来ないんで。吸えないって事は、つまり息が吸えないわけですから、脳に酸素が行かないわけですから。心肺機能に負担がかかってきますから、スタミナが低下すると。スタミナが低下すれば思考回路なども同様も低下するっていう。そういった理論だと思うんですね。」
上田晋也
「なるほど。だから以前から「ボディを打てばジワジワと効いてきてスタミナがなくなる」っていうのは、要はそういう事なんですね。
“呼吸を量る”と言っても本当に相手の呼吸を見るのではなく、打ち終わりや打って来ようとしている瞬間を狙うという事だそうです。確かに考えてみるとまさに“吸う時”ですね。
今岡武雄
「ワン・ツーを左にダックして、左のボディーっていうのが凄く有効ではありますね。」
上田晋也
「そのタイミングをつかむには、もう反復練習しかないでしょう?」
斉藤一人
「あと相当キャリアがないとダメでしょうね。」
上田晋也
「そう考えると辰吉なんてキャリアの序盤から結構いいボディを使ってましたよね。」
渋谷淳
「勇気があったというか、命知らずだったのか知らないですけども(笑)。普通にボディ打つんでもガード下がるから怖いのに、それをカウンターで行くっていうのはね。それ以上の勇気がなければできませんからね。」
斉藤一人
「天才じゃないですか。右ストレートに対して左にダックするって、相当度胸いりますから。」
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ボディブローが有効な相手は?
上田晋也
「やっぱりボディブローを打つのに有効な選手っていうのは、フットワークを主に使う選手と見ていいんですかね?」
渋谷淳
「一言で言ってしまえば、どんな選手にも効くとは思うんですけど、やっぱりフットワークが多い選手はボディを使って止めるっていうのは、定石ですよね。」
普通ボディが効いてくると体に力が入ってしまうので、足も止まるしスタミナも切れる。逆に現役時代の今岡会長のようにボディをエサとして打たせておいて上を狙うといった作戦もあったり。本当に奥が深いですね。
上田晋也
「確かにチーフの大好きなモハメドアリも「ボディはわざと打たせる分には効かないんだ」みたいな名言を残してましたよね。あれは人生の名言でもありますよね。」
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目のフェイント
ボディを見ておいて打たないとか、ボディを狙っておいて上を打つなんていう、目を使ったスカシ作戦のような事も。有名な輪島功一の“よそ見パンチ”も、ある意味“目のフェイント”ですよね。
上田晋也
「じゃあ、本当にボディを打つ時っていうのは、チラッとも見ないんですか?」
今岡武雄
「見ないですね。見ないという証拠で、さっきのワン・ツー→左フック、それから左ボディとかっていう事が。」
上田晋也
「だからちょっとローブロー気味になったりっていうのも…。」
今岡武雄
「ありますね。」
上田晋也
「さっき言った15R制から12R制になって、ポイントにつながり難いし、減点につながりやすいパンチだったりも。ローブローでね。例えば、トリニダードとバルガスの時なんてトリニダードが減点されたり、チャベスがランドールとやった時も、あれローブローがなかったらドローの試合だったのが…チャベスが初黒星をつけられるのはボディを使いすぎた為にみたいな。」
渋谷淳
「ただポイントをとり難いっていうのもあるとは思うんですけども、やはり今のボクシングはコンビネーションで、上と下を立体的に攻めない事には、やっぱり上で仕留めるのは難しいですからね。」
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ボディブローは体を沈めて打つのか?
それともパンチを下に向かって打つのか?
ボディブローは、体を沈み込ませない事には腰の回転が効かないので、ヒザを折って体全体を沈み込ませて打つ事が重要だそうです。なのでボディブローを得意とするボクサーは、ヒザを悪くすると大体下降気味になってくるそうで…。
渋谷淳
「大体晩年になってくるとヒザが硬くなってきちゃうっていうのが。これは国内国外関わらずあるような気がしますね。」
上田晋也
「ヒザのバネって凄く大事ですよね。」
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ボディブローの防御法
ボディブローの防御法としては、ヒジで防ぐエルボーブロック。「防げれば防ぐ」といった感じだそうです。パリー(相手の攻撃を手のひらで払う)では、やはりガードが空いてしまうので危険だとか。
今岡武雄
「パリーを多用すると、ボディ自体は防げると思うんですけど、もしそれが誘いのフェイントだったら大変な事になりますから。」
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4人が選ぶ、ボディブローの名手 BEST 3
上田晋也(くりぃむしちゅー)
1.マイク・タイソン
世界を獲った時の右ボディフック→右アッパーが衝撃的
2.フリオ・セサール・チャベス
ほぼ全試合、ボディを有効に入れていたから
3.ロベルト・デュラン
右ストレートからの左ボディアッパーが印象的
今岡武雄(イマオカボクシングジム会長)
1.フリオ・セサール・チャベス
単純なワン・ツー→左ボディなのに当たるのが七不思議
2.マイク・マッカラム
ジャブでボディを打ちやすい所を作っていくのが上手い
3.渡辺雄二
「この人はもらったんで(笑)」
斉藤一人(イマオカボクシングジム チーフトレーナー)
1.フリオ・セサール・チャベス
メルドリック・テーラーとのタイトルマッチで、
最後の最後に巡ってきたチャンスにも関わらず、
顔を狙わずボディを狙っていたのが印象的
2.マイク・マッカラム
会長と全く同じ。ボディスナッチャー
3.カルロス・サラテ
チャベスと同じメキシカンという事で
渋谷淳(ボクシングライター)
1.ミッキー・ウォード
あんまり他のパンチは上手くないが、ボディは一流
2.ボブ・フィッシモンズ
歴史上の人物。みぞおちパンチの生みの親
3.マイク・タイソン
右のダブルを見て考え方が変わった
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今回は、「ボディブローはあまりメリットがない」という今岡会長、「現代ボクシングでは重要になってくる」という渋谷さん、「ポイントがとり難いんじゃないか」という上田さん、と皆さんそれぞれの見解で語り合っていたのが面白かったし勉強にもなりました。次回は…たぶん古坂大魔王ですね(笑)。この一回置きの温度差がたまりません。
テレ朝チャンネル
上田ちゃんネル
イマオカボクシングジム
前回:上田ちゃんネル #3
上田ちゃんネル攻略マニュアル「上田と古坂」
最近この番組、個人的に一押しです。上田さんらしさが、今現在の出演している番組の中で出ていると思います。#4は見れなかったので、金曜日に見ます。
それにしても、ボディブローで1時間とは^^
記事見て、「お腹を打つ事によって酸素の取り入れが悪くなるんで脳を殺せる。」という部分には、はじめの一歩の真田、みぞおち打ちには、ゲロ道ことハンマー・ナオをイメージしました。あ、主人公の一歩もレバー打ち得意でしたね。
上田ちゃんネル、いかにもCSらしくて最高ですよね(笑)。
ボクシングがテーマの時には凄く勉強になるし、
古坂さんとのトークの時は、腹かかえて笑いながら見てます。
次回は10月24日ですね。今から楽しみです。