上田晋也
「収録的には昨日という事になるんですね。粟生選手、そして長谷川選手の、代々木でのタイトルマッチがあったわけですけれども。」
ゲスト解説は、上田ちゃんネルではすっかりおなじみ、イマオカボクシングジム会長の今岡武雄さん、イマオカボクシングジムチーフトレーナーの斉藤一人さん、ボクシングライターの渋谷淳さん。本題に入る前に、ちょうど収録の前日に行われたボクシングのタイトルマッチを振り返ってみる事に。
2008年10月16日 代々木第1体育館 ○オスカー・ラリオス(12R判定)粟生隆寛● WBC世界フェザー級タイトルマッチ |
≫打倒オスカー・ラリオス!粟生隆寛選手が世界初挑戦
≫(ボクシングファン.net より)
上田晋也
「粟生選手、残念でしたね。」
今岡会長
「本当にもうちょっとだったですね。」
上田晋也
「何が足りなかったんでしょうね?」
今岡会長
「何でしょうね…。気持ちもありましたし、技術もありましたし、スピード、パンチ力、全てあって、言葉では言い表せない何か1つが欠けたのかなっていう…。何が明確に欠けたかというのはわからないですけど。残念です。」
上田晋也
「チーフは、どうご覧になりました?昨日の試合は。」
斉藤チーフ
「ラリオスが凄かった!」
上田晋也
「あれだけの選手って、簡単に負けてくれませんね。」
斉藤チーフ
「そうですよね。粟生選手、頑張ってて凄いんですよ。それ以上にラリオスがしぶといし。」
上田晋也
「だって、グラグラしながらも、ちゃんとパンチ出して、ポイント奪っていって。」
斉藤チーフ
「倒された後から、アウトボクシングに切り替えてたじゃないですか。あんな境地に行かされてまであの切り替えというか…。もう凄いですね。」
上田晋也
「粟生選手と4倍近くのキャリアの差みたいなところなんでしょうかねえ。渋谷さんは昨日現場で?」
渋谷記者
「今、キャリアの差っていう話が出ましたけど、粟生君本人も試合後そういう話をしてたんですけども。僕はデビューから粟生君は見てるんですけども、やっぱりああいう“あと一歩!”というところで仕留めるような場面って、彼は今まで経験してなかったかなって感じましたね。」
上田晋也
「僕、粟生選手の事を凄く応援してるし、ファンだし、実際に面識も2〜3回あったりもするんですけれども、榎選手とやったじゃないですか、JCBホールで。あの時も「粟生、今日勝てるな〜」という試合展開で、後半3ラウンドで、ちょっと追い込まれてドローみたいな。何かこう「最後もう一歩行けよ」っていうのがね、ファンとしてちょっと「悔しいな〜!」なんていうのがあるんですけど。その辺、感じませんか?」
渋谷記者
「ずっと見てるんで。要するに粟生君って、強いのはわかるんだけど、今ひとつ面白くない試合が多いとかって言われるじゃないですか。手数少なかったりとか。そういう粟生君を見てると、昨日なんかは、かなりアグレッシブだったし…彼にしてはですよ?基本的に“待ってカウンター”っていうボクサーなんで、どうしてもそういうボクシングになっちゃうんですけども。だから、そういう意味では成長の跡とかタイトルマッチにかける意気込みみたいのは、僕は感じたんですけれども。」
上田晋也
「でも、粟生選手はまだまだ若いですからね。」
今岡会長
「まだまだ、これからですね。」
上田晋也
「これから大きな糧になって。それこそ世界を獲ってくれるんじゃないかと思いますけども。一方、長谷川穂積は凄いですね!」
2008年10月16日 代々木第1体育館 ○長谷川穂積(2R TKO)アレハンドロ・バルデス● WBC世界バンダム級タイトルマッチ |
≫長谷川穂積選手がアレハンドロ・バルデスを迎えた
≫サウスポー対決 (ボクシングファン.net より)
今岡会長
「強いですね。本当に速い、で、強い。今、敵がいないですよね。」
上田晋也
「本当、長谷川選手はあと数年負けないんじゃないですか?」
今岡会長
「安定王者ですよね。」
上田晋也
「具志堅さんの記録を抜くぐらい強そうな気がしますけど、長谷川選手の試合は現場でご覧になっていかがでした?」
渋谷記者
「長谷川君も試合終わった後に話を聞きに行ったんですけども、ちょっとビックリしたのが「今日は動きが硬くて、全然硬さが取れないまま試合が終わってしまいました」って言ってましたよ。」
上田晋也
「あれで?はぁ〜!最初テレビでも言ってたんですよね、1ラウンド終わった時点で会長とかセコンド陣が「ちょっと動きが硬いぞ」って言ってて。ファイティング原田さんは「硬くねぇだろ」って…。」
一同
「(笑)。」
上田晋也
「原田さんも「硬くねぇ」って言ってたからね(笑)。そしたら長谷川穂積も試合後に「ちょっと今日硬かったです」って。「えぇ、あれで!?」みたいな感じがあったんですけれども。」
今岡会長
「硬いようには全然見えなかったですね。実は私も昨日現場の方に行ってたんですけども、全然硬いようには見えないですよね。ただ、サウスポーとの試合経験があんまり無いという事が、先入観の中でちょっと苦手意識があったのかなとは思いますけど。あの試合見る限り、別にさしてサウスポーに苦手意識があるとは感じませんし、硬いとも感じませんし。毎日見ているチームにしかわからない何かがあるんでしょうね。」
上田晋也
「硬くて2ラウンドでKOしちゃうんですからね。凄いですよね。本当に完勝と呼べるね。長谷川選手にはまた次の防衛線に期待したいと思います。」
試合の流れは、ラッパきよしさんのまるで試合を見ているかのように楽しめるファンサイト「ボクシングファン.net」のレポートが、わかりやすくてとても良かったです。
上田晋也
「今日はですね、左ジャブ、左右のフックに左右のアッパー。久々に技術論を教わりたいなと思って、今日は3テーマで。」
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今回のテーマ
「左ジャブ」「フック」「アッパー」で1時間
ゲスト解説
今岡武雄(イマオカボクシングジム会長)
斉藤一人(イマオカボクシングジム チーフトレーナー)
渋谷淳(ボクシングライター)
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左ジャブ 最も多く放たれるパンチ!! 攻撃のペースをつくる重要なテクニック!! |
ボクシングでは「ジャブに始まりジャブに終わる」と言われるほど重要なパンチ。日常でも「軽くジャブを…」みたいに使う事ありますよね。
上田晋也
「決してKOするパンチではないかもしれませんけれども、基本中の基本のパンチ。このジャブにはどんな意味が?」
今岡会長
「一言で申し上げると「万能薬」だと思うんですよ。どんな状況においても、まずはこのパンチ。僕らも選手を指導する立場でよく言うんですけれども、「何を打っていいかわからなくなった時、迷った時にはとりあえずジャブを打て」と。とりあえずっていう言葉は良くないとは思うんですけど、やっぱり“ジャブから始まってジャブで終わる”っていうような形で、まずはジャブを先に出すと。」
上田晋也
「ほう。」
今岡会長
「意味合いとしては、「攻撃の糸口をつかむ」っていうこともありますし、「相手の攻撃を防御する」こともできますし。」
上田晋也
「「防御のジャブ」というとどういう…?」
今岡会長
「例えば昨日の試合を例に挙げますと、ラリオスが途中からジャブを使ってアウトボクシングしましたね。やっぱり粟生君がジャブが邪魔で入れなかったですね。それこそ、あのジャブが無く粟生君の馬力が勝っていれば、ラリオスも落城してたんじゃないかなと思います。あのジャブが中盤効いてますね。ポイントも取れてますし、相手を来させない為のジャブですね。」
上田晋也
「確かにずっとこれ(ガードのまま)だったら、ガーッと来られますもんね。ジャブを出していく事で相手は入って来れないと。」
今岡会長
「そうですね。そういった意味合いのジャブっていう事もできますし、それからジャブによって次のコンビネーションにつなげる事も。「攻撃の糸口」ですね。あとフェイントにも使える。」
上田晋也
「なるほど。」
今岡会長
「例えば、ジャブを上に下にと打ち分けて使う事によって。下に相手の意識を持っていって上を当てるとか。上に持っていって下に当てるとか。色んなフェイントにも使える万能薬。」
上田晋也
「他にも自分のリズムを作っていく為にジャブを出すとか、相手との間合い、距離を探る為のジャブとかね。チーフはどうでしょう?現役時代「やっぱジャブって大切だな」なんて思われた事っていうのは?」
斉藤チーフ
「それはずっと思ってましたね。」
上田晋也
「やっぱりチーフも現役時代っていうのは、ジャブから自分のリズムを作ったり、タイミングを作ったり?」
斉藤チーフ
「はい。僕はオーソドックスに、基本通りにやってたんで。「ジャブが一番得意になれ」とトレーナーに言われていました。」
上田晋也
「はぁ〜、なるほど。ジャブというのは昔から大切でね、確か、レナードとハーンズが初めて試合をやった時。ハーンズがアリにアドバイスを求めに行ったか偶然にアリに会った時、「どう戦えばいいですかね?」って聞いた時に「徹底的に左を突け!左だけでいい!」っていうような事を言ったらしいんですよね。だから、最初ハーンズは忠実に左で試合を作っては…結果的には負けますけれどもね。ただどうなんでしょう?チーフもおっしゃってた「ジャブを忠実に」って言いますけど、あまりやってると右クロスを当てられてしまうとか、タイミングを読まれてしまうっていう恐れも一方ではあるのかななんていう気がするんですけれども。」
今岡会長
「ありますね。セオリーとしては、“ジャバー”と呼ばれる左ジャブを多用する選手には、右クロスでとめていく。その威圧感があるんで、ジャブの数が減ってきて、試合が作れなくなってきてペースをとられるっていうケースがありますね。ただ、それは上田さんがおっしゃったようにリズムなんですね。リズムを読まれてしまうと、相手のリズムに合わせて右クロスカウンターですね。カウンターといのはタイミングですから。タイミングをとる為にはリズムが必要なんで。ジャブを打つ時の注意点としては、単調なリズムをさける事ですよね。速く打つジャブと、スピードをわざと殺して打つジャブの、緩急を作る事です。スピードにも強弱をつけていくという事ですね。」
上田晋也
「でも、このジャブの「リズムを変える」「タイミングを変える」っていうのも、結構難しいもんなんじゃないですか?」
斉藤チーフ
「そうですね。実戦でそれが出来るとなると、ある程度キャリアを積まないとだめですね。最初デビューした頃はみんな必死なんでできないですね。」
上田晋也
「どうしても自分のジャブのタイミングでやってると、右のカウンターを合わせられそうな気がしちゃう。それでカウンターが恐いからジャブが打てなくなっていくっていうのは、心理的にはわからんではないですけどね。じゃあ、どうなんでしょう?ジャブを出す上で気をつけるべきことって言ったら…そのタイミングを読まれないように、カウンターを合わせられないようにというのは出ましたけども、他にはどういった事が…?」
今岡会長
「そうですね、ジャブに対しては目には目でジャブなんですね。ジャブを得意とする選手同士で戦った時によく見られるんですけど、やはりお互いジャブをもらうわけにはいかないので、右でパーリーするか、あるいはヘッドスリップして、あるいはステップバックして外して、またジャブを打つわけですけど、その時にジャブを打つことだけに集中してしまうと、相手のジャブをもらってしまいますんで。そのキャッチボールで、相手のジャブをもらわずに自分のジャブを当てていく、またさらによけて当てていくっていう形で、ジャブとジャブのさし合いになった時は、ディフェンスを注意できるかどうかですね。クロスだけではなくて、相手のジャブをもらわないようにすることが注意点としてあげられるんじゃないですかね。」
上田晋也
「なるほどね。渋谷さんはどうですか?メイウェザーとかロイ・ジョーンズみたいな、あまりジャブは出さずに急に大きいパンチを出す選手と、忠実にジャブから作っていく選手というのは、好みとしてはどちらが?」
渋谷記者
「好みとしてはどっちというのはないですけども、今お話ありましたけど、ジャブのさし合いでペース争いっていうのは、結構見ごたえありますよね。」
上田晋也
「あれは痺れますよね。」
渋谷記者
「野球で言えば投手戦じゃないですけども。ホームランを打つまでのプロセスみたいな。」
上田晋也
「はいはい、ジリジリとね。ジャブのさし合いで勝った方が「こっちの方が今日勝つんじゃないか」って思っちゃうようなところもね。確かにジャブで試合を作っていくという選手は魅力的なんだけれども、ウラジミール・クリチコとかね、「お前ジャブしか出してねぇだろ!この5R!」みたいなね。」
一同
「(笑)。」
上田晋也
「あるじゃないですか、右一切出さないで。あれはあれでストレスたまるんですよね、確かにジャブ出してるのは偉いんだけれども。クリチコ、多くないですか?そういうの。」
渋谷記者
「多いですね(笑)。」
上田晋也
「あいつ警戒心強すぎるんですよね!」
渋谷記者
「まぁ、そう言われて気付きましたけど、ヘビー級は意外と動きがちょこまかしてない分、ジャブが多いかもしれないですね。」
上田晋也
「あ〜、そうなのかな。でも、こないだ復活しましたお兄さんのビタリー・クリチコの方は、それでも右をサミュエル・ピーターにもってってたりとかするじゃないですか。あいつ(弟は)ずーっと警戒ばっかりして!お前、ボクサー界のセコムかと!」
一同
「(笑)。」
上田晋也
「網ばっかり張りやがってね。それはそれで不満がたまる時があるんですよね、クリチコは。」
渋谷記者
「しかも、彼は背も高いしリーチもあるから、それだけやっとけばポイント取れちゃうみたいなね。」
上田晋也
「でも、ちょっと左だけじゃなく勇気出していってよって思うところはあったりしますよね。」
斉藤チーフ
「ありますよね(笑)。」
上田晋也
「あともう一個聞きたいなと思うのが、フリッカージャブ。」
フリッカージャブ 腕全体をしならせて拳を返しながら 下から打つパンチ |
上田晋也
「有名なのは、トーマス“ヒットマン”ハーンズですけれども、このフリッカージャブのメリット・デメリットを伺いたいなと思うんですけれども。チーフ、フリッカージャブのメリットというのはどの辺が?」
斉藤チーフ
「やっぱり見づらいですね、下から出てくる分。」
上田晋也
「やっぱり止めづらいですか?フリッカージャブは?」
斉藤チーフ
「そうですね。」
上田晋也
「フリッカージャブの止め方としては何が?」
斉藤チーフ
「やっぱりパーリーとかでしょうね。下から入ってきても、やっぱりジャブだから距離があるんで、パーリーはできますね。」
上田晋也
「じゃ、逆にデメリットってなると…?」
斉藤チーフ
「やっぱある程度リスクはありますね、手を下げている分だけ。ただ、勘のいい人だとよけたりとかもしますけど。」
上田晋也
「ハーンズが悉く破れたのも、それですもんね。結局、ショルダーブロックがさほど上手くない。そしてスウェーが遅れた所に右をもらってっていうパターンがね。でも、日本のジムでは、そんなにフリッカージャブを教えようとは思わない?」
今岡会長
「そうですね、あんまり推奨してないですよね。ただ、今の世界のボクシングを客観的に見てですけど、凄くリラックスできると思うんですよ。どうしても(ガードを)上げると筋肉を硬直させるんで、上げるよりも下げた方がリラックスしやすい。フリッカーではないんですけど、これは長谷川穂積選手なんかがそうだと思うんですよね。凄くリラックスを心がけてボクシングをしてるなっていうのがわかるんですよね。で、ジャブとはちょっと異なるんですけど、構え方一つとして、フリッカーの場合はエサを撒くっていう意味もあると思うんですよね。クロスを狙わせる。相手はチャンスだと思いますから、そこにカウンターを合わせる。あるいは上げ(普通のジャブ)の一つの効用としては、ただ単にブロッキングできるだけじゃなくて、相対した時に当たらない気がするんですよ。」
上田晋也
「なるほど。」
今岡会長
「がっちりガードを上げられると、何かジャブが当たらない気がしてですね、どうしても今度はフック系のパンチを狙いはじめちゃうんですね。一概にはどっちが有利とは言えませんけど、フリッカージャブは、今凄くアリだと思いますね。昔はあんまり推奨しないパンチの一つでしたけど。勘のいい選手でしたら、大いに使うべきじゃないですかね。」
上田晋也
「そんなに拒絶反応は会長にはないと。」
今岡会長
「ないですね。」
上田晋也
「まぁ、ジャブの話も尽きない所なんですけども、今日はあと2テーマやるという事で、ここで「ジャブの名手 BEST3」をお三方に挙げていただこうかと。」
* * * * *
4人が選ぶ、左ジャブの名手 BEST 3
渋谷淳(ボクシングライター)
モハメド・アリ
ジャブといえばモハメド・アリ
トーマス・ハーンズ
ジャブでダメージを与えられるというのがインパクト大
サーシャ・バクティン
現役の選手の中から。今後の期待もこめて
斉藤一人(イマオカジム チーフトレーナー)
マイク・マッカラム
立ち位置によって右手の防御の位置が変わってるのが凄い
オスカー・デラ・ホーヤ
ジャブでのコントロールが上手い
フランキー・ランドール
左右どちらの相手でも左ジャブで変わらない戦い方ができた
今岡武雄(イマオカジム会長)
ヒルベルト・ローマン
威力が左ジャブというより左のストレート
トーマス・ハーンズ
フリッカー気味のジャブでのペース取りが絶妙
高橋直人
カウンターの名手で、カウンターのプロセスでジャブを
上田晋也(くりぃむしちゅー ツッコミ担当)
モハメド・アリ
渋谷記者と同じく
トーマス・ハーンズ
渋谷記者と同じく
ラリー・ホームズ
威力という意味ではアリよりホームズ
上田晋也
「やっぱり基本、渋谷さんとカブるんですけどね(笑)。」
渋谷記者
「(笑)。」
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フック 曲線を描き横から放たれるパンチ! 横からくるので見えにくく攻撃力は高い |
最後の決めパンチとして多く使われるフック。上田さんが、フックを打つ時の拳の向き、フックの距離感等について聞いています。
上田晋也
「特に左フックなんて、ひょっとしたら一番のKOパンチかもしれませんし。現場でご覧になっててどうですか?後楽園ホールとかでも左フックで決まった試合なんていうのは…?」
渋谷記者
「たぶん一番多いんじゃないですかね、やっぱり左フックは。」
上田晋也
「確かに左フックで倒れてるイメージが多いんですけども。これはまさしくKOパンチ…?」
今岡会長
「そうですね。右ストレートに匹敵する、それに次ぐKOパンチですね、間違いなく。」
上田晋也
「どうなんでしょう、拳を相手側に向けるフックと、拳を天井に向ける左フック、色々あるかと思うんですけれども、これの違いというのはどの辺なんでしょう?」
今岡会長
「もう本当に好みの問題だと思うんですね。スナップを使う場合は親指を上に向けて。スナップを使わない場合は拳を横にして打ちますし。両方使う選手もいますし。状況においても変わってきますんで。」
上田晋也
「ほう。」
今岡会長
「例えば、ちょっと遠い所で打つ時にこう(親指を上)にすると、オープンになっちゃうんですね。」
上田晋也
「なるほど。」
今岡会長
「こう(拳を横)にすれば、ある程度当たってきますから。あと巻き込む時は、ナックルを返す為に手首を曲げてこっち側(親指を上)にした方が打ちやすいですね。どっちが正解、どっちが不正解というのはないと思います。どちらもアリだと思いますし。」
上田晋也
「別に効き目とかに違いもない?」
今岡会長
「ないですね。」
上田晋也
「距離の問題とかでちょっと変わってきたり。」
今岡会長
「ただ、スナップを使うという意味で、僕自身は親指を上にして使いますね、手首の返しを使う為に。」
上田晋也
「僕は高校時代ですかね、ボクシングのHow to本みたいなのを読んでて、その本には「こっち(親指を上)を向けて打つんだ」と。「ただし、当たる瞬間にナックルを返せ」っていう風に書いてあったんで。それで僕なりに練習してたんですけれども(笑)。あんまりメキシカンとかはナックル返さないらしいですね?ウワサで聞いたんですけども。実際、ナックルを返したりはするものなんですか?」
今岡会長
「ナックルは返しますね。捕まえた瞬間、ミートした瞬間にナックルをちょっと内側に捻るようにした方が、ナックルパートの一番効く部分が当たりやすくなるんですよ。当たった瞬間、面(拳全体)で捕らえるんじゃなくて点(人差し指と中指の拳部分)で捕らえる事ができる。僕であれば、中指の一点を当てたいなっていう形で打ちますから、ナックルを返した方が当てやすい。」
上田晋也
「ほぉ〜!」
今岡会長
「アルゲリョなんかは返さないで、そのまま(拳を横にしたまま)いきますね、フック凄く上手い選手ですけど。やっぱり色んな打ち方があると思うんです。」
上田晋也
「なるほど。チーフは現役時代、フックを打つ上で気をつけていた事は、どの辺が?」
斉藤チーフ
「打ち終わったら隠すようにしたりしてましたね。」
上田晋也
「なるほど、打ちっぱなしにならずに自分の顔面を守ると。」
斉藤チーフ
「打ち終わった後に守れるようにしてました。」
上田晋也
「フックの防御法としては、どのような防御法が一番いいんでしょうね?」
斉藤チーフ
「やっぱ右のガードをしっかりした方がいいですね。自分がフック打てる時は、相手もフックを打てる時なので。距離が同じなんで、相打ちになるケースが多いんですね。ここで自分がフックを打つ事だけしか考えないで、思いっきりいっちゃうと、フックの合い打ちの時にバチン!ともらっちゃうケースがよくありますね。」
上田晋也
「なるほどなるほど。それは確かにデラ・ホーヤとかはフック打つ時、ちゃんとこっち側(右のガード)を固めていて。でも、一方のリカルド・マヨルガは、もうこんなガラ空で打ってきてるのがちょうど入ってみたいな印象があったりしますもんね。」
斉藤チーフ
「はい。」
上田晋也
「どうなんでしょう、さっきもちらっと話が出ましたけれども、ロングとショートでのフックの打ち方の違いってなると。例えば、フックって巻き込むように打つのか、それとも先に伸ばすように打つのかってなると、それはやっぱり距離の違いなんですかね?」
今岡会長
「そうですね。近ければ伸ばしても打てませんし、遠ければ伸ばして打つしかないというのもありますし。それは状況において色んな形があると思いますけれども、確かに巻き込んで打つという選手は、距離を潰して引きつけてますね。本来、フック系のパンチというのは、ストレートよりかは距離が短いですから、どちらかというと至近距離で使うパンチですけど、ロングでも十分使えると思うんですね。ロングでもリードパンチで左のジャブ、左のフック、左のアッパーっていうのは使えますから。左のフックもロングでは打てると思うんですけど、多少前に出すようなイメージですね。」
上田晋也
「はぁ〜、ロングの場合はね。それでは、今度は「フックの名手 BEST3」を皆さんに伺いたいと思います。もちろん左右問わずという事でございますけれども。」
* * * * *
4人が選ぶ、フックの名手 BEST 3
渋谷淳(ボクシングライター)
ウィルフレド・ゴメス
個人的に左フックで一番に思い浮かぶのがゴメス
マイク・タイソン
全盛期のタイソンの、あの躍動感を思い出すと入れたい
ジョー・フレージャー
ひょっとしたらヘビー級では歴代でもナンバーワンかも
斉藤一人(イマオカジム チーフトレーナー)
アレクシス・アルゲリョ
ジャブと同じような軌道で出してくる
フィルフレド・ゴメス
左フックはバーズカーのような感じが
ルイシト・エスピノサ
相手の右にかぶせて左フックを叩き込むのが得意
今岡武雄(イマオカジム会長)
オスカー・デラ・ホーヤ
鋭角な左フックが見ていて気持ちいい
レイ・ブンブン・マンシーニ
ラッシングパワーで左右どちらでも倒せる
ルイシト・エスピノサ
クニャクニャしてるけど、左フックの時だけ固めてくる
上田晋也(くりぃむしちゅー ツッコミ担当)
ウィルフレド・ゴメス
渋谷記者と同じく
ジョー・フレージャー
ボビングしながらの左フックが印象的
ホセ・ピピノ・クエバス
ウェルター級とは思えないパンチ力
上田晋也
「(渋谷さんと)ゴメスとジョー・フレージャーカブりました。アンタとカブるわぁ〜(笑)。」
渋谷記者
「逆にカブらせたくなってきました(笑)。」
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アッパー 相手のアゴやレバーを狙い下からすくい上げるパンチ! 破壊力がある分リスクも大きい |
接近戦で威力が発揮される一撃必殺パンチ。
上田晋也
「アッパーというのは、ストレートやフックと違って、下から打つパンチなんですけど、この腰の回転の仕方っていうのは、ストレート、フックとはまた違うんですか?」
今岡会長
「僕が教える時は同じだって教えています。それが横なのか下なのかの違いなんですけど。例えば、それがロングであるとかショートであるとか、状況がちょっと違うと教え方が変わってきますけど、基本的にはそんなに変わるパンチではないと思います。」
上田晋也
「ほう。でも渋谷さん、アッパーというと下から突き上げる…何て言うのかな、腰をドーンと(腕に?)付けるイメージがあるじゃないですか、フックの回転と違って。見てて、みんなフックと同じ感じで打ってます?」
渋谷記者
「でも、考え方によっては、体重を移動して当てるという風に考えれば…例えば、(打ち方)ストレートならこうじゃないですか。アッパーだったらこう。って考えると、ストレート系の動きかなっていうような事を言う方もいらっしゃったんだけども、逆にどうなのかなっていう。」
今岡会長
「ちょっと距離があいてると、やっぱり前に出ないといけないんでストレート系と同じような感じなんですけど、今度ショートで中に入ってこられた時のアッパーを連想した場合にですね、前に出れないんでフックと同じような腰の回転ですね。動力には二つあると思うんですね。ピッチャーを思い出してもらうとわかると思うんですけど、ピッチャーが前に体重移動して投げる、これはストレート系だと思うんですね。で、フック系というのはバッターですね。バッターは体重の移動じゃなく腰の回転で打ちますよね。アッパーはどちらも使うと思うんですよ。」
上田晋也
「なるほど。」
今岡会長
「ストレートとフックとアッパーがちょっと違うのがですね、ストレートとフックは上から出てきますから、ある程度ガードをしたまま打てるんですね。ところが、アッパーは一度ガードを下げなきゃいけないんで、その辺がハイリスクになってくると。ちょっと恐怖感もありますよね。」
上田晋也
「なるほど。」
今岡会長
「ロングだと特にそうですし、至近距離であってももらいますから、一時的にでもガードがなくなるんで。頭の位置が凄く重要になってくるパンチの一つじゃないかなって思いますね。」
上田晋也
「いわゆる腰の使い方っていうのは、やはり同じにしとかないと「この腰の動きだとアッパー」「こっちだとフック」って読まれてしまうみたいなところもあるんですかね?」
今岡会長
「それも曖昧な言い方になりますけど、状況だと思うんですよ。相手が近いか遠いか、相手が前に出てくるか下がるか、相手が手を出すのかカウンター待ってるのか、その状況によって全然違いますので、一概にはこうと言えないんですけど。ただ、基本的にはアッパーっていうのは下から突き上げるパンチなので、足を使って上体を浮かしている時に打ちにくいパンチですね。ちょっと下にへばり付くようなイメージですね。アウトボクサーなんかで本当に動きまわる選手だと、アッパーは使いにくいパンチの一つだと思いますね。ただ、ファイター系のボクサーが頭を振ってインサイドにもぐり込んできた時には有効なパンチですね。」
上田晋也
「それで入れさせないというようなね。」
今岡会長
「ジャブだけでは絶対に入ってくる選手は入ってきますから。ジャブをもろともせずに入ってくる選手も、やっぱり下からくるアッパー、もうこの辺(頭を下げた位置)でもらうアッパーって本当に恐いですから。」
上田晋也
「ん〜、そうでしょうね。」
今岡会長
「スパーン!打ち上げられる。ロペスがこの辺まで(腕が)出てる写真がありますけど、あそこまで突き上げられると驚異なんで。あれを見せられるだけでも、ちょっと入れなくなりますよね。」
上田晋也
「確かに見せるだけでも有効な手段。今、会長から「突き上げる」というフレーズが出ましたけど、アッパーというのは「突き上げる」もの?それとも、アルゲリョとかを見ていると「突き刺す」みたいなイメージもあるじゃないですか。どっちなんでしょうね?」
斉藤チーフ
「僕は距離だと思いますね。やっぱ近いと突き上げるようになりますけど、ロングレンジになってくると突き刺すようになりますね。」
上田晋也
「威力としては、やっぱり突き上げる方が威力はあるんですか?」
斉藤チーフ
「と、思いますね。なかなか遠くで力を入れるっていうのは難しいところありますね。」
上田晋也
「やっぱり距離の問題なんでしょうか、突き刺す、突き上げる。」
今岡会長
「もちろんそうなんですけど、僕が自分で経験した中では、突き上げようとすると、パンチがほとんど外れるんですよ。」
上田晋也
「ほう。」
今岡会長
「どうしても、ちょっとなんですけど外れるんですね。「喉を刺すように打て」と当時のトレーナーから言われたんですけど、ちょっと突き刺すように打つように心がけたら、一気に当たるようになったっていうのが。突き上げようとすると、やっぱり早めに(手首を)巻き込むんですね。早く当てたいと思うのか、ちょっと距離が足りなくて外れるケースが多いんですけど。特に右ですね。左はある程度前に突き出せるんですけど、右はどうしても自分の方へ巻き込んでしまうので、出そうとすると自分も危ないんですよ。」
上田晋也
「(左右のアッパーの動きを確かめる)…なるほど。何か今のは凄くわかるような気がしますね、巻き込みやすいっていうのが。「喉を突き刺す」、いいねぇ!大杉が「月に向かって打て」って言われたのと同じようなね!」
一同
「(笑)。」
上田晋也
「アッパーというのは勇気がいるパンチだと思うんですよ。自分の顔をがら空きにしてしまう。非常に顔面の位置やポジショニングが大切になってくると思うんですけど、ココ(頭)を打たれないように死角に持ってくるという事ですか?」
今岡会長
「そうですね。打たれない位置ってあると思うんですよ。例えば、日本であればセレス小林さんですね。あの人のボクシングというのは、頭の位置が凄く良い所にあるんで。常に打たれない位置に頭を持っていくのが凄く上手な選手だったんじゃないかなと思いますし。」
上田晋也
「なるほど。」
今岡会長
「アッパーの名手で私が感じるのは、僕の同門の渡辺雄二が世界挑戦を初めてやった時のエナロ・ヘルナンデス、あのヘルナンデスなんかもアッパーをインサイドから打つ名手の一人じゃないかなと思うんですけど、やっぱり頭の位置を危なくない所に持っていってからガードを下げるんですね。基本的にはガードは高いんですけど、頭の位置を持っていってからガードをがら空きにして空間を作って一気に持っていくっていう。だから、しなるパンチが。例えば、ここから(ガードのまま)じゃアッパー打てませんから。やっぱり(ガードを)下げないと打てないので、下げて空間を作らなきゃいけない。」
上田晋也
「なるほどね。じゃあ、そのアッパーへのカウンターってなると、やはりオーソドックススタイルの場合は、右ストレートという事になるんですね?」
今岡会長
「そうですね。(左右)どっちのアッパーを打ってるのかによっても違いますけど、アッパー自体が凄くカウンターをとられやすいパンチですね。」
上田晋也
「じゃあ、右アッパーの時は左フックをあわせて?」
今岡会長
「基本的にはそうですね。で、左アッパーには右のクロスをあわせていく。ただ、理論的にはそうなんですけど、中南米系のしなる左アッパーを打ってくるローマン・ゴンザレスとかああいう選手、本来だったら右のクロスをあわせればいいはずなんですけど、あれだけしなってくるとクロスをあわせるタイミングというのが取れないですよね。驚異ですね、あれだけしなったパンチを打てる選手がいると。」
上田晋也
「では最後にね、アッパーの名手BEST3を伺って、今日はシメたいと思います。今度は渋谷さんとカブらねぇだろ。」
* * * * *
4人が選ぶ、アッパーの名手 BEST 3
渋谷淳(ボクシングライター)
アレクシス・アルゲリョ
ボディアッパーのインパクトが強い
リカルド・ロペス
出所のわかりづらいジャブのように出てくるアッパー
沼田義明
ラウル・ロアス戦のアッパーでのKO勝ちが印象的
斉藤一人(イマオカジム チーフトレーナー)
リカルド・ロペス
強烈な左アッパーが印象的
アレクシス・アルゲリョ
渋谷記者と同じく
ファン・マルチン・コッジ
前に出てくる左アッパーが強烈
今岡武雄(イマオカジム会長)
ファン・マルチン・コッジ
サウスポーなのに左アッパーを得意としている
ローマン・ゴンザレス
全盛期のアルゲリョを思わせるような動き
アントニオ・エスパラゴサ
鞭のようにしなる右アッパーが驚異
上田晋也(くりぃむしちゅー ツッコミ担当)
リカルド・ロペス
ロペスの打ち抜くアッパーは外せない
ナジーム・ハメド
いきなり出てくる独特なアッパー
東京三太(ミゲル・ゴンザレス)
深夜に中継で見た漫画のようなアッパーに衝撃を受けた
上田晋也
「東京三太、これ絶対かぶらない自信あったの。」
渋谷記者
「(笑)。」
* * * * *
上田晋也
「今日はですね、左ジャブ、フック、アッパーの3テーマ。正直、ディレクターが面倒くさそうな顔してるんですよ。編集しなきゃいけないから。」
一同
「(笑)。」
上田晋也
「いつも55分で撮っているのを「お前なに1時間以上しゃべってんだよ!」ってね。まぁでも、これはもう大事な話ですからね。…何にとって大事な話なんだよ!」
一同
「(笑)。」
今回は、約8ヶ月ぶりのボクシング企画(技術論モノだと1年8ヶ月ぶり!)でしたけど、さすがメイン企画なだけあって、とても見ごたえがありました。今回は3テーマで1時間でしたけど、1テーマ1時間でも全然いけるような感じでしたね(むしろ物足りなそう(笑))。上田ちゃんネルのスポーツ部門(ほかに野球、プロレス)の中では、僕はプロレスファンですけどボクシングの企画が一番好きかも。あと24時間ぐらいTVではボクシング企画をやるんでしょうか?生で「ボクシング軽量級 夢のトーナメント戦」をやるのも面白いかもしれませんね。
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上田ちゃんネル
24時間ぐらいTV!!
11月29日(土) 21:00
〜11月30日(日) 21:00
ch717「テレ朝チャンネル」
古坂大魔王さんのブログ「古坂大魔王のブログンだい魔くん」にて、「24時間ぐらいTV」の企画を募集中!コメント欄に<24時間企画>と前フリ書いておもしろ企画を!
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テレ朝チャンネル
上田ちゃんネル
イマオカボクシングジム
前回:上田ちゃんネル #51
上田ちゃんネル攻略マニュアル「上田と古坂」
ボクシングかなり久し振りでしたが今回も熱の入った内容でしたが、私個人としてはかなり笑えました(笑)
24時間テレビもかなり事が大きくなっていますが期待大です。
古坂さんと浜ロンさんのコント時間があれば是非観覧したいです。上田ちゃんネルマニアとして(笑)
>ボクシングかなり久し振りでしたが今回も熱の入った内容
>でしたが、私個人としてはかなり笑えました(笑)
今回のボクシング、やっぱり3テーマで1時間では
上田さん物足りなそうでしたね(笑)。
今度の24時間ぐらいTVでは、「最強重量級ボクサー」
をやるそうですので楽しみですね。
>24時間テレビもかなり事が大きくなっていますが期待大です。
>古坂さんと浜ロンさんのコント時間があれば是非観覧したい
>です。上田ちゃんネルマニアとして(笑)
観覧行ける方が羨ましい!
もし行けたら、生アッコ講座の感想聞かせて下さい(笑)。